聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
―どうして闇神は、ヴィルトゥス様を殺したのだろう。

―どうして光神は、涙を流し闇神を攻撃したのだろう。

リュティアは右手を持ち上げ、そこに意識を集中する。

するとみるみるうちにそこに光が集まり、一振りの美しい剣の形となった。

すべてを貫く聖なる力を秘めた最強の剣、アンジェルだ。

「ヴィルトゥス様が教えてくださった傷つけない剣を、やっぱり私にはつくることができない…」

リュティアはアンジェルを月光に掲げると、不意に右へ左へ剣を閃かせた。

架空の攻撃をかわし、反撃し、とびすさり、宙返りざま剣を横へ払う。

あまりにも鮮やかな動きであった。

歴戦の勇者も驚くような動きであった。

この剣技がよみがえったリュリエルの力のひとつなのだ。

楽園の風を切り裂きながら、心が叫ぶ。

―なぜ、人間はこんなにも争うのだろう。

―なぜ、調和して生きられないのだろう。

―なぜ、戦わなければならないのだろう。

「戦いたく、ない…!!」

その声は空を切る剣の音に今にも掻き消えてしまいそうだ。

―戦わなければならない。

「なんのために…!?」

剣を振り下ろす。

―守るために。

「守るために傷つけるなんて、間違っている…!」

剣を振り払う。

―けれどそうするしかないのだ。

これだけ動いても息も切れない。それが呪わしい。

―この命は、戦うためにあったのだろうか。

そう思えて、呪わしい…。
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