聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
聞いたことのない声。その声には蔑むような響きが感じられた。
味方ではない、それははっきりとわかった。
だからリュティアは振り返らなかった。その時間を惜しんでとにかく聖具に手を伸ばそうとした。
しかし聖具に手が触れる前に、リュティアの体は強い力に殴られ吹き飛ばされていた。
したたかに壁に体を打ちつけくずおれたリュティアがなんとか顔だけを上げると、目の前には三つの竜の頭に見上げるほどの巨体を誇る獣の姿が威圧するようにそびえていた。
その三つ頭の浮かべる表情、それは残酷な愉悦とでもいえばいいのか。
完全に面白がっている。
圧倒的な勝者の余裕がそこにある。
その表情を見てリュティアは悟った。自分の計画が失敗したことを。
「どうやって逃げ出したやら。少々お仕置きが必要なようだ」
「あなたが…四魔月将の一匹、ゾディアックですね」
リュティアは逃げる隙を窺うためにゆっくりとそう発音した。しかしゾディアック―人語を喋る魔月であるからおそらく間違いない―には一分の隙も見当たらなかった。壁に手を付きなんとか身を起こすリュティアに、ゾディアックの猛獣の腕が襲いかかる。
腕はリュティアの細い首をぎゅうぎゅうと締め付けながら彼女の体を持ち上げた。
―息が苦しい…!!
リュティアの目の前に星が散る。
頭の中が真っ赤になり、それから暗転していく…。
―だめだ。今、意識を手放したら…。
締めつけられた腕に両手を伸ばし、ひっかき、なんとか逃れようとあがく。しかし容赦なく意識は遠のいていく。
やがてその白い細腕がだらりと垂れさがるのを、ゾディアックの三つの頭が残酷な笑みを深めながらみつめていた。
味方ではない、それははっきりとわかった。
だからリュティアは振り返らなかった。その時間を惜しんでとにかく聖具に手を伸ばそうとした。
しかし聖具に手が触れる前に、リュティアの体は強い力に殴られ吹き飛ばされていた。
したたかに壁に体を打ちつけくずおれたリュティアがなんとか顔だけを上げると、目の前には三つの竜の頭に見上げるほどの巨体を誇る獣の姿が威圧するようにそびえていた。
その三つ頭の浮かべる表情、それは残酷な愉悦とでもいえばいいのか。
完全に面白がっている。
圧倒的な勝者の余裕がそこにある。
その表情を見てリュティアは悟った。自分の計画が失敗したことを。
「どうやって逃げ出したやら。少々お仕置きが必要なようだ」
「あなたが…四魔月将の一匹、ゾディアックですね」
リュティアは逃げる隙を窺うためにゆっくりとそう発音した。しかしゾディアック―人語を喋る魔月であるからおそらく間違いない―には一分の隙も見当たらなかった。壁に手を付きなんとか身を起こすリュティアに、ゾディアックの猛獣の腕が襲いかかる。
腕はリュティアの細い首をぎゅうぎゅうと締め付けながら彼女の体を持ち上げた。
―息が苦しい…!!
リュティアの目の前に星が散る。
頭の中が真っ赤になり、それから暗転していく…。
―だめだ。今、意識を手放したら…。
締めつけられた腕に両手を伸ばし、ひっかき、なんとか逃れようとあがく。しかし容赦なく意識は遠のいていく。
やがてその白い細腕がだらりと垂れさがるのを、ゾディアックの三つの頭が残酷な笑みを深めながらみつめていた。