聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
その戦いが始まった時、空が変わった。エルラシディアの空は二人の力と力のぶつかりあいを表す巨大なスクリーンとなった。

光がはじけ、闇が集結し、雷が走り、炎が赤く燃え、風がすべてを渦として飲み込む。

王と王の戦いが始まったことを誰もが知った。

すさまじい力のぶつかり合いを誰もが感じた。

しかし彼らはその決着をただ待つことはしなかった。

空で聖乙女が戦うように、彼らは大地で戦った。

奪われた町や村を取り返すため、殺された家族の仇を討つため、国を守るために、聖なる力を宿した武器で魔月軍に果敢に立ち向かった。

熱した油を城の上から魔月軍に注げば、さらにその上から空飛ぶ魔月が槍の雨を降らせる。弓兵隊の一斉射撃に次々と魔月が倒れれば、その間をくぐりぬけた魔月に次々と人が食いちぎられる。

プリラヴィツェではセラフィムやフューリィやアクスが、ヴァルラムではフレイアやパールやザイドが、アタナディールではマリアやフレックスが、それぞれに死力を尽くして魔月と戦う。

世界は今、悲しいほど鮮やかな色彩を帯びて廻る。

埋め尽くされる生と死という色彩を。

朝が、人間たちに力を与える。生まれ出ずる太陽の光のような希望を。

夜が、魔月たちに力を与える。赤く空を支配する月の光のような欲望を。

光を、〈聖乙女〉が背負う。

闇を、〈猛き竜〉が背負う。

繰り返される朝と夜の中、二人は剣を―光と闇をぶつけあい続ける。

世界は決着を望んで廻り続ける。3000年前からの戦いの、決着を望んで。
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