聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
その時――

ライトが、ふっとわずかに微笑んだように見えた。

その微笑みで、リュティアにはわかってしまった。

彼が望む救い―それは死なのだと。リュティアの手で殺されることを、彼は望んでいるのだと。

―俺を殺せ。

その双眸は確かにそう言っていた。

リュティアの視線が凍りつく。そしてゆっくりと、リュティアはかぶりをふる。

―いや。

―それだけはできない。

けれど彼の中には激しい破壊衝動が荒れ狂っているのだ。リュティアにはそれをどうしてやることもできないではないか。この戦いを回避できたとしても、彼のその先の人生は?

―ライトのために、どうすればよいのだろう。

―ライトのために…。

リュティアは必死で道を探したが、探せば探すほど答えはひとつしかなかった。

ライトをその衝動から、力から、運命から、解放する方法…。

彼をその人生から、解放するのだ。

―できない!

―やるのだ。

「…できない!」

「リュティア」

リュティアは稲妻に打たれたように顔を上げる。

初めて、ライトがリュティアを名前で呼んだのだ。

ライトの剣先は下がり、その顔は…

微笑んでいた。

はっきりと、やわらかく優しい笑みを浮かべていた。

それでリュティアは思い知った。

彼の願いを…。

そして彼の願いを叶えられるのは、自分しかいないのだと。
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