聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「世界のためじゃない…」

リュティアは涙をこらえた。

「ただ、あなたのために…あなたのために…」

こみあげてくるものを必死でこらえた。泣き顔を、最後にしたくなかったから。

「私が、たったひとつの方法で、あなたを…救います」

リュティアの流れるような手の動きで、二人を包む結界が解けた。

リュティアは光の剣アンジェルを、右肩に大きく振りかぶるように構える。

それは突きの構え。

ライトは、それでいい、と思った。

それでいい。

リュティアの想いがもう自分にはないことがわかったけれど、最初から、愛されることまで望んではいなかった。ただ、こんな気持ちを知ることができた。人を愛するという感情。それ以上に大切なものなど今のライトにはない。だから、それでいい。きっと自分は魔月ではないと信じられたから…この命は戦うためにあったわけじゃないと思えたから…それだけで、いい。

ライトは両腕を広げ、ゆっくりと目を閉じる――。
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