聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
何が起こったのか、わからなかった。

当の本人であるカイにですら、わからなかったのだ。わかるものなどいなかっただろう。

どす、と鈍い衝撃と共に左胸に激痛が走った。

そこではじめて、カイは自分が何をしたのかに気が付いた。

なんということだろう。

カイはライトを守るために、飛び出していたのだ。

突きだされた剣の前に、飛び出していたのだ。

「カ…イ…?」

見開かれるリュティアの瞳が見える。その大切なカイの宝石に、カイは語りかける。

「だめだ、リュー…。ライトを殺しては、いけない…愛する人を手にかけては、いけな…い……」

かすれた声でそれだけ言うと、カイは血を吐いた。

意識が薄れてゆく。

「カイ………!?」

リュティアがぶるぶると手を震わせ剣から手を放す。

ああ、自分は死ぬのだと、やけに冷静にカイは思った。

だから、体から力が抜けていくのを感じながら、リュティアをみつめていた。リュティアだけをみつめていた。

最後の瞬間まで、愛する人を見つめていたかった。

「リュー……」

最期にもう一度、愛していると伝えたかった。

だがそれは、叶わなかった。

もう彼の唇は、動いてくれなかった。
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