聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
―リュティアよ。

呼ぶ声が聞こえる。

リュティアは目を開ける。

光が見えた。

闇を照らすまばゆい光。

あたたかな熱を持った光―――。

リュティアはその空間を見渡す。

目で見ているのではない。心で見ている。感じている。

そこには闇があり、光があった。

光の中に人影が見える。

くるぶしまではあろうかという長い黄金の髪を持った人影。

あまりにもまぶしくて、その人の顔は見えない。けれどリュティアにはわかった。

「――光神様」

彼こそが光神であるとわかった。

リュティアの目から涙がこぼれた。あとからあとから、涙がこぼれた。

リュティアは涙をこぼしながら彼に跪き、訴える。

「お願いです、光神様。ヴィルトゥス様を―カイを、連れて行かないで。私の命を差し上げます。だからどうか、彼を助けて―彼を助けて…!!」

リュティアはなぜかこの時光神が微笑んでいると分かった。

微笑んで、彼は何も言わない。

だからリュティアは祈る。全身全霊をかけて祈る。

―カイ…カイ…カイ…カイ…!!

神ではなく、愛しい人の名を連呼しながら。

そっと頬に手を添えられ、リュティアは顔を上げる。

こんなにもはっきりと光神の顔を見たのははじめてだった。

彼はあまりにも美しすぎて、その印象はまるで流れる滝のように、こぼれる光のように、心を清らかに通り過ぎる。

彼は愛おしむようにリュティアの涙をぬぐった。

そして、リュティアの体の中へと入ってくる―――。





あの時と同じだと思った。ヴィルトゥスの死ののち、〈光の道〉を守るためにリュリエルがやったことを、光神はもう一度やってくれようとしているのだ。

それをすれば、あの時と同じように自分の肉体は力の行使に耐え切れずに死すだろう。

それでもいいとリュティアは思った。

カイを助けてくれるなら、それでもいいと思った。

リュティアの意識が、光に溶けていく―――。
< 160 / 172 >

この作品をシェア

pagetop