聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「ライト様の到着を待とうと思っていたが、気が変わった。また逃げだされては厄介だからな。ここで生きながら食われ、果てるがいい」
陶然とした表情でそう語るゾディアックの手に、ふたつの聖具が握られているのを見て、リュティアはじりじりと胸が焼け焦げるような思いを感じた。
―あの聖具を取り返せれば…!
絶望の中に希望を感じた。
しかし…
「希望。今お前は希望を感じている。私はそれを打ち砕くのが何より好きだ。だから聖具はほら、この岩の上に置いて行ってやろう。お前はあと一歩で届かぬ希望に苛まれながら死にゆくのだ。ハハハハッ」
リュティアの抱く希望すら、ゾディアックの計算のうちだったのだ。
―これが魔月という生き物なのか。
―ここまで残酷になれる生き物なのか。
ゾディアックの去りゆく背中に、リュティアは悲しみすら覚えた。
しかしその感情はすぐに、嵐のように押し寄せる恐怖にとってかわられた。
グルルルルル…
いつのまにか、リュティアはたくさんの獣の唸り声に囲まれていた。
闇夜に無数の赤い目が浮かび上がる。
リュティアは身がすくんだ。
鳥、犬、豹、狼―さまざまな魔月たちがリュティアという獲物を求めて群がり始めていた。
本能的に逃げ出そうと全身に力を込めたが、鎖はきつく、びくともしない。
―今すぐ鎖を切らなければ。
そう思ったが、これほどの恐怖の中で先ほどと同じように集中するのは不可能だった。
獣の牙がむき出しになる。垂れるよだれがぬめぬめと光る。
「…いや! 来ないで!」
リュティアは我を忘れて叫んだ。叫ばずにいられなかった。
「いや! 誰か!」
獣たちは一斉にリュティアに飛びかかった。リュティアは自分の体にのしかかる獣の体温を感じた。今にも突き立てられようと振り上げられる牙を感じた。
「誰か! 助けて! …カイ!!」
死を確信した時、なぜかリュティアの脳裏に蘇るのはカイの面影だけだった。
言えていないことがあるような気がしたのだ。
伝えていないことがあるような気がしたのだ。
―一体何を…?
陶然とした表情でそう語るゾディアックの手に、ふたつの聖具が握られているのを見て、リュティアはじりじりと胸が焼け焦げるような思いを感じた。
―あの聖具を取り返せれば…!
絶望の中に希望を感じた。
しかし…
「希望。今お前は希望を感じている。私はそれを打ち砕くのが何より好きだ。だから聖具はほら、この岩の上に置いて行ってやろう。お前はあと一歩で届かぬ希望に苛まれながら死にゆくのだ。ハハハハッ」
リュティアの抱く希望すら、ゾディアックの計算のうちだったのだ。
―これが魔月という生き物なのか。
―ここまで残酷になれる生き物なのか。
ゾディアックの去りゆく背中に、リュティアは悲しみすら覚えた。
しかしその感情はすぐに、嵐のように押し寄せる恐怖にとってかわられた。
グルルルルル…
いつのまにか、リュティアはたくさんの獣の唸り声に囲まれていた。
闇夜に無数の赤い目が浮かび上がる。
リュティアは身がすくんだ。
鳥、犬、豹、狼―さまざまな魔月たちがリュティアという獲物を求めて群がり始めていた。
本能的に逃げ出そうと全身に力を込めたが、鎖はきつく、びくともしない。
―今すぐ鎖を切らなければ。
そう思ったが、これほどの恐怖の中で先ほどと同じように集中するのは不可能だった。
獣の牙がむき出しになる。垂れるよだれがぬめぬめと光る。
「…いや! 来ないで!」
リュティアは我を忘れて叫んだ。叫ばずにいられなかった。
「いや! 誰か!」
獣たちは一斉にリュティアに飛びかかった。リュティアは自分の体にのしかかる獣の体温を感じた。今にも突き立てられようと振り上げられる牙を感じた。
「誰か! 助けて! …カイ!!」
死を確信した時、なぜかリュティアの脳裏に蘇るのはカイの面影だけだった。
言えていないことがあるような気がしたのだ。
伝えていないことがあるような気がしたのだ。
―一体何を…?