聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
これは帰還の儀式だ。

この城の主であり、レトの婚約者である自分に課せられた役割なのだ。

この時代、世界エルラシディア大陸は深い森と美しい湖と清浄な空気で満たされていた。

大陸中に常春の穏やかな気候をもたらす“楽園の風”が吹き、至る所に光神の愛の息吹より生まれ出でたリュリエルたち星麗が住まっていた。彼らは星の光と水を生命の源とし約500年の人生を穏やかに生きる者たちであった。

しかし世界に住まっていたのは星麗たちだけではなかった。闇神の破壊と欲望の息吹より生まれ出でた魔月と呼ばれる獣たちも、遥かな昔より星麗を食らい時に魔月同士で互いに食い殺し合いながら存在していた。

相容れぬ存在である星麗と魔月。

誕生したその瞬間から彼らの間に戦端が開かれたのは言うまでもない。

だがそれが大戦にまで発展したのは、300年ほど前のことであった。

光神と闇神の意志がそうさせたのだ。

星麗たちはその光の力で武器と鎧をつくり各地で魔月たちと激突した。

昼夜となく繰り返される攻防。血で血を洗う戦乱。

リュリエルが生まれたのはそんな戦乱の時代の真っ只中であった。

星麗たちは調和のもとに生きる者たちであるから王国をつくることはなかったが、父なる神である光神の声を聞くことのできる特別な能力を持った一族が彼らをまとめ支えていた。

その一族をアンジュと呼び、のちにプリラヴィツェと呼ばれることになる湖の畔アンジェラスに彼らが住まう城があった。

リュリエルはそのアンジュの中でも光神の姿まで見る特別な力を持った姫であり、アンジェラスの城の主であった。
< 2 / 172 >

この作品をシェア

pagetop