聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
フローテュリアの隣国、武勇と軍馬の国ヴァルラム。その第一王女フレイアがここにやってくるまでにはそう、数え切れないほどの苦労があった。

まず、剣の師匠である女騎士ジョルデにお忍びのはずの計画がばれていたことが、最初の苦労のひとつだったろう。

『どこへ行くのかな? フレイア』

目立たぬよう城の裏門から出て行こうとしていたフレイアの目の前に、ジョルデが立ちはだかったのだ。

『ち…ちょっと散歩よ』

『それがちょっと散歩に行く奴の荷物か、アホ』

確かにフレイアは申し開きのしようのない格好をしていた。背中にも馬の鞍にもたくさんの荷物を括り付け、準備万端旅装を整えていたのだから。

『アホですってぇ!? アホって言う方が、アホなんだからっ。アホジョルデッ』

…口の悪い師弟である。

『パールに会いに行くんだろう』

『な、なんでわかるの』

『この魔月と戦わねばならない大事な時期に国を離れることの意味をわかってるのか?』

『もちろんわかってるわ。でもこの国は、絶対大丈夫よ。お父様とザイドがいるんだもの! それよりこの大事な時期だからこそ、あの子のそばにいてやりたいの』

『そうか。では行くか』

『え?』

『止めても聞くまい。そう陛下がおっしゃった』

『いや、その…ってゆ~か、あんたも来るの!?』

『お前みたいなじゃじゃ馬を野放しになんてしてみろ、世界が壊れる』

『ちょっ、それ、どういう意味よっ!!』

かくして二人の旅は始まったのだが、決して平坦な道ではなかった。

あちこちに魔月が現れるため、人々は皆結界のある王都ヴァラートへの避難を始めており、中継地点となる町や村で十分な補給ができないのだ。

無論、町や村はもぬけのからではない。

王都に逃げたくとも逃げられない人は大勢いる。その理由は王都自体に人々の受け入れ態勢が整っていないことや、故郷を愛する気持ちが強い人々がいること、経済的な事情など様々だ。そういった人々と勇気ある商人たちのおかげで辛うじて流通は保たれているものの、国内は決して楽観できない状況だった。だから二人の旅は水や食料を節約しての貧乏旅となった。

だがヴァルラムにいる間はまだよかったのだ。本当の苦労はヴァルラムを抜け、フローテュリアの領地に入った頃に始まった。
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