聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
フローテュリアの領地とは言っても、旧フローテュリアでは領地だったものの、新生フローテュリアでは王都のみに国民が集結しているために、今の段階ではどうしても放置される形になっている町や村がいくつかあった。

滅亡の折ヴァルラムやアタナディールに避難していた人々がそこに戻り、細々とした生活を営むようになっていた。

町や村に住みついたのはそういった人々だけではなかった。

混乱に乗じて逃げおおせた多くの犯罪者たちも、住みつくようになっていたのだ。フレイアたちはそれと知らず、フローテュリアに入って最初の町にやってきた。

町に一軒しかない宿屋を最初に見上げた時から、これはちょっとまずいぞと確かにフレイアの直感はそう訴えていた。

古い木の看板は外れかかってキィキィと風に揺られ、屋根には雨漏りしそうな穴がいくつも空いていた。

何より気になったのが馬の扱いだ。厩には屋根すらなかった。

これは馬をことのほか大切にする国ヴァルラムでは考えられないことだった。飼い葉の質も恐ろしく悪い。そのへんの雑草の方がまだましなくらいだった。

それでも二人がこの宿に泊まることにしたのは、ずっと野宿が続いていたのであたたかいベッドが恋しかったからだ。さすが常春の国だけあって気候も暖かいし、雨も降りそうにないので厩のことも目をつぶったのだ。

それが災いした。

二人が朝目覚めて厩舎に行くと、二人の愛馬は盗まれたあとだった。

『騒いでも、仕方あるまい』

『ど~~~してあんたはそう冷静なのよ~~! 探すわよっ、私の馬! そして盗んだ奴の横っ面、殴り飛ばしてやる!』

その願いはその日のうちに叶った。闇のルートで売りさばかれる直前、倉庫につながれていた愛馬二頭を見事取り返し、盗んだ奴の横っ面を殴り飛ばしてやったのだ。

それからは二人も懲りて町や村に差し掛かっても食糧や水の補給だけ、寝泊まりは野宿のみとなった。
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