聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
フローテュリアでも、ヴァルラムと同じようなことが起こっていた。いや、もっとひどかったかも知れない。

すなわち聖乙女のいる場所へ、より強い結界、より強い聖なる守りの力を求めて、各国からフローテュリア王都に人が次々と集まって来ていたのだ。

初めて王都にたどり着いたとき、フレイアはそのありさまに目を丸くした。

空き地や街路のいたるところにテントがずらりと並んでいたのだ。町並みの美しさよりも、その異様さがフレイアの印象に強く残った。

つまりそれは、あたたかいベッドが遠い夢だということを意味していた。そういうわけでさんざん苦労をしてやっとたどり着いた目的地王都でも、フレイア達はこのとおり宿からあぶれ、街中でテント暮らしを余儀なくされているのである。

苦労話がこれで終わったならまだよかった。だが二人の苦労は王都に着いてからもとどまるところを知らなかった。

買い物をしようと財布を取り出した時、風のように素早く若い男に財布をすられてしまった。それがちょうど運の悪いことに、テントに敷く絨毯という大きな買い物をしようとしているところだったから、有り金全部をすられてしまった。

ただでさえ人々は恐怖と不安から日用品を買占め、物価が異常に高くなっているというのに、ここにきて無一文は致命的だった。

『うが~っ、どうすんのよこれからぁ~!』

『稼ぐしかあるまい』

『ど~~~~~してあんたはそう冷静なのよ~~~!!』

『金は、ないわけじゃない。できるなら使いたくなかったが』

ジョルデはブーツやマントに何枚か金貨を仕込んでいた。

しかしそんな折フレイアがひどく風邪をひいた。だからそのお金も風邪薬代に消えた。苦労に次ぐ苦労である。
< 27 / 172 >

この作品をシェア

pagetop