聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
一番穏やかなはずの聖なる王国の王都で起こったこれらの事件は、世界全体の治安が今や悪くなっているという現状を露呈していた。

新国王ラミアードが政策を駆使し取締りを厳しくしているから、人死にまでは出ないで済んでいるといったところか。それはすべて、日に日に弱まっていっている結界のせいだとフレイアは踏んでいる。

そう、厄介なことに、人々の頼みの綱である結界が、効力を失ってきているのだ。

もう一人の女王にして世界の希望、聖乙女リュティアに何かあったのではと人々は恐怖している。

フレイアとリュティアとは、互いの素性も知らぬまま、共に隊商に加わって旅をした仲だ。フレイアは彼女と自分は親友だと思っている。パールのことだけを思って飛び出してきたけれど、噂を聞くにつれ、リュティアのことが心配になった。

だから何週間も前から女王リュティアへの謁見を求めているというのに、いまだに待たされ続けているというこの現状!

フレイアは不意にふふ、と笑った。少し不気味なほどに唐突に笑った。

待つ、それが昔からフレイアには苦手だった。待っている暇があったら、突き進みたい。ぶつかってもいいから、進みたいのだ。

「よっしゃ!! ジョルデもいなくなったことだし、え~い、いっちょ、やりますか!」

彼女は腹筋を使って勢いよく身を起こした。

その頭の中に浮かぶのは、いかにも彼女らしい無鉄砲な計画だった。

―待たされるのは飽き飽きだ! 忍びこんでしまえ!
< 29 / 172 >

この作品をシェア

pagetop