聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「リュリエル、お前も戦いに出ろ」

詳しい戦況の報告が行われた謁見の間から二人の他に人がいなくなるなり、レトはぞんざいな口調でそう切り出した。

「そうすればこの長きに渡る大戦にも決着が着く。お前には最強の剣“アンジェル”をつくる力も、それを操る腕もあるのだから」

「レト様、私は戦いを望んでいません。私は…」

「まだそんな甘ったれたことを言っているのか。お優しい姫君には、現実を直視するのが重荷と見える。我々星麗はこの数百年にも及ぶ戦いで力を失い始めている。髪が黒く染まり武器を生み出すことも鎧を生み出すこともできなくなった哀れな同胞たちは数知れない。
このままでは魔月たちに負けてしまう」

「それは、わかっています。でも…」

「次の出陣の時には必ずお前を連れていく。これは決定だ。ああ、その前に私たちの婚儀か」

レトが婚儀という言葉を吐き捨てるように口にするのを、リュリエルは心に重い石でものせられたような気持ちで聞いた。

星麗たちが力を失い始めた今、リュリエルの力は最重要視された。だから従兄でありやはり強い力を持つレトとの華燭(かしょく)の典は生まれた時からの決定事項であった。

「ふん、そんなに戦いに出たくなければ、せいぜいはげんで俺の子でも宿すことだな」

こういう時、リュリエルの心はうつろになる。

心にぽっかりと暗い穴があいて、そこに冷気がたちこめるような気持ちになる。

確かに、彼の言うとおりだ。子でも宿さなければ、次の戦いを逃れるすべはないのだ。その現実はリュリエルをどこまでも憂鬱にする。
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