聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
そうして逃げているうちになんだか楽しくなってきた。

こういう極限の場面で燃えるのが彼女と言う人間なのだ。

警備の兵の腕前はどうなのだろう、腕試しまでしたくなってくる。

この状況で武器をとれば彼女は本物の不審者なのだが、そんなことには思い当たらない。

彼女の逃走劇はあっけなく幕を閉じた。

前からも衛兵、後ろからも衛兵―囲まれたのだ。

「貴様、何者だ!!」

「何者か、試してみる!?」

フレイアが好戦的に微笑みながら腰の短剣を引き抜こうとした時だった。

「姉様!?」

耳慣れた声が―愛しくて愛しくてたまらない声が―フレイアの耳を打ったのは。

不意に木の影から、金髪の少年が現れた。

「パール!!」

見間違うはずがなかった。

この子に会いたくて、会いたくて、こんなところまで来てしまったくらいなのだから。

フレイアはすっかり状況を忘れてパールに駆け寄り思いきり抱き締めた。

パールはフレイアの抱擁を受けながら、少し呆れたような声を出した。

「衛兵さんたち、この人は、怪しい人じゃないよ。僕の、姉様」

衛兵たちはあっけにとられたように、二人を交互にみつめるのだった。
< 32 / 172 >

この作品をシェア

pagetop