聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「じゃあ、リュティアは何者かにさらわれたっていうの?」

「そうだよ。今ラミアード陛下がほうぼうに兵をやって血眼になって捜している」

パールはフレイアにそう答えながら、左手首を掻いた。掻いているそばから右の手首もかゆくなってくるので、パールは右手首も掻く。

服の繊維が肌に合わないのだ。

今パールはおかしな服装をしていた。ぼろぼろに型崩れして袖ばかり異様に長い水色のセーター―のようなもの―を着ていたのだ。

先ほど照れながら手渡されたフレイアお手製のセーターである。

―僕は姉様が大好きだから、こんなあまりにもひどいセーターでも喜んで着る。

今二人は王宮に仕える者たちが家族と面会するための面会室を貸し切っている。純白のテーブルの上に置かれたリンゴジュースを一息で飲みこんでぷはっと息を吐いてから、フレイアがため息のように呟く。

「リュティアは無事かしら…ううん、きっと無事ね。アクスやカイが絶対に助け出すもの! それにしても一体誰がリュティアを…」

この姉はいつでも前向きだ。

しかしはたしてリュティアは無事だろうかと、パールは内心ほくそ笑む。が、そんな感情はおくびにも出さずに彼は怯えた表情をつくる。
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