聖乙女（リル・ファーレ）の叙情詩～奇跡の詩～

その時だった。

ヒュッと空気が鳴り、パールの鼻先をかすめて何かが飛んできたのは。

飛んできた何かはパールの背後のグミの木の幹にぐさりと突き刺さった。

短剣だ。

それがやってきた方角を見やると、そこには身がまえたままの黒髪の少女の姿があった。

「姉様！？」

それは紛れもなくフレイアだった。

「姉様、どうしたの？」

パールは髪の毛一筋ほども動揺していなかった。

だからこうもしゃあしゃあと、何気ない風を装って可愛らしい声を出すことができた。

フレイアは答えない。

そのままずかずかと、足音も高くパールに歩み寄り、そして―――

そして目にもとまらぬ早業で、パールの横っ面を、思いっきり殴り飛ばした。

パールの華奢な体はものの見事に宙を吹っ飛んだ。

「左手にしてやったことに、感謝しなさい」

パールはしばらく身を起こすことができなかった。地面に転がり、口の端に滲んだ血をぬぐいながら、弱弱しい声を出した。

「い…いきなり何するの姉様…」

「私はあんたの姉じゃない」

月明かりに照らし出されたフレイアの表情は静かだった。

静かだったが、それはちょうど台風の目のような静けさだった。

彼女の周りを激しく渦巻いている感情を彷彿とさせる静けさだった。

その感情の名は―怒り。

「何を言ってるの…？」

「いい加減にしなさい！　あんたは私のパールじゃない！　あんたはパールの――偽物よ！！」