聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
パールは地に仰向けに倒れたまま呆気にとられたような表情でしばらくフレイアを見上げていたが、不意に笑いだした。

それは狂ったような笑いだった。

決して、パールの笑い方ではなかった。

「ハハハ、ハーハッハッ! その通りだ、私はこんな小僧ではない。私は“刻印”を施した者の姿形、記憶の大半までもコピーできるというのに、それはそれは、してやられたな。なんて面白い娘だ」

話しながらすでにその声はパールの愛らしい声ではなく、聞いたこともない低い男の声に変わっていた。

フレイアは左手で木の幹に刺さった短剣を引き抜き、右手で腰に下げたもう一本の短剣を引き抜くと、攻撃の構えをとった。

揺るぎのない瞳で、偽パールを睨みつける。

空気が張り詰める。

血の予感に。

「正体を現しなさい! 下種(げす)野郎!」

「よかろう。私の真の姿、見せてやろう」

そう言いながらパールがゆっくりとその場に立ちあがった。

すると水の生き物が脱皮するように今までパールだった皮がみるみるうちに剥げ、中から皮を突き破るようにしておぞましい巨体が現れた。

三つの竜の頭に六つの赤い角、獅子のような獣の胴体を持つ魔月だった。

「私の名はゾディアック。四魔月将の一人だ」
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