聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
リュティアとアクスは顔を見合わせた。

子供を産んだのかとアクスが視線で問いかける。いやいや産んでいないとリュティアが視線で答える。

どう声をかけるべきか、どっちが声をかけるかを二人は視線で相談する。結局先に口を開いたのはリュティアだった。

『あの…陽雨神様。人違いをされているようですが、私はリュティアと申します。勝手にあなた様の世界にやってまいりましたこと、お詫び申し上げます。しかしながらどうしてもお尋ねしたいことがあり、こうして参ったのです。陽雨神様、あなたが世界に“消えない虹”を架ける力をお持ちになっているというのは、本当ですか』

『いかにもその通り。人々の祈りが最高にまで高まりし時、我の笑顔すなわち太陽の光によりて、消えない虹は架かろう。だが母上よ、そんなあたりまえのことを我に尋ねるなど、どうかされたのか?』

あくまで陽雨神はリュティアを母と思いたいようなので、この際二人はそれを無視することにした。

『陽雨神様。今エルラシディア大陸は魔月との戦いで危機に陥っております。どうかお力をお貸しください。そのお力で消えない虹をお架けください』

アクスの嘆願に、陽雨神はひどく哀しい表情を見せた。

それは見る者の胸を切なくさせるような表情だった。

『それはできぬ。できぬのだ。我は…二度と笑わぬ』

かたくなな宣言に、二人は衝撃を受けた。

消えない虹だけが世界の希望なのだ。それなのに……

『お願いです陽雨神様』

リュティアも必死で嘆願した。

しかし陽雨神は二人に背を向けると、青い星の影に隠れてしまった。

『…帰ってくれ』

『陽雨神様!』

『どうしてもというならサーレマーを連れてまいれ。あやつが約束を守らぬ限り、我は二度と笑わぬのだ』

『あの、サーレマーという方は、いったい…』

陽雨神は答えなかった。彼の拒絶を如実に表すように、頭上から星々が陽雨神のもとに集まってきて、卵の殻のようにすっぽりと包んでしまった。

それきり、なんと声をかけてももう陽雨神が姿を現すことはなかった。

何が陽雨神をそこまでかたくなにさせているのだろうか。

二人はその疑問に苛まれながら胸に重石を載せられたような心持ちで歩きだし、再び海の鏡を渡った。

しかし浜辺にたどり着いてみるとそこは…

そこはアクスの故郷ピティランドの浜辺であったのだ。

二人は短時間で、なんと海を渡ってしまったのである。
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