聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
―陽雨神様に、どうか笑顔が戻りますように…。どうかこの祈りが届きますように…。

「リュティア様」

そっと声をかけられたので顔を上げると、ハナの小さくて穏やかそうな瞳と目が合った。

「ありがとう。こんなに祈ってくださるなんて、さすが若がお仕えする方なだけあるよ」

「いいえハナさん。今私にできることが、これくらいですから…」

ハナはアクスの母親だが、アクスより四歳年下の38歳だ。生母ではないのだ。アクスが二十歳の時にアクスの生母は亡くなり、その時16歳のハナを父親が新しい妻に迎えたのだという。

ピティランドには現在六つの部族が住む。そのうちのプレニア族の村がアクスの出身地であり、今二人はアクスの生家であるハナの家にお世話になっている。

「…あたしにはわかる。あたしたちの祈りだけじゃ、陽雨神様のお心に届かない。男たちもあなたのように祈ってくれなければ…そうでなければ陽雨神様は笑ってはくださらないだろう…この雨は、ずっと続くんだろうね…」

呟いたハナの目がついと横に動き、開け放たれた両開きの扉の向こう、縁側のさらに外へと向けられた。

リュティアもつられるようにそちらに目をやると、彼女の言葉通り、細い雨が空から大地へとめどなく吸い込まれていっている。

陽雨神の涙を思い起こさせる、透明な雨。

ハナはためいきをついた。

「もう二か月雨ばかり。このままでは土がだめになっちまう。隣のビノ族では川も氾濫して被害が出たって話だ。この国はどうなっちまうんだろう。二度とお天道様を拝めないんじゃないだろうか。あたしは不安で………」

ハナの言葉に同調するように、祈っていた女たちが顔を上げ不安そうに目を見かわし、ため息をついた。

「…………」

リュティアはかけるべき言葉を探してしばし視線をさまよわせた。
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