聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「赤いアクス。お前が帰ってきたという噂は本当だったんだな」
不意に背後から声をかけられ、アクスは驚いて振り返った。
深い物思いにふけっていたから、近づく人の気配に気づかなかったのだ。
目の前に現れたのは赤と黒のまだらの髪を後ろでひとつに結んだ、屈強な大男だった。彼を目でとらえた瞬間、アクスは思わず口走っていた。
「黒いアクス…!」
――と。
アクスという名は、昔遥かエルラシディアから伝わってきた最強の武器の名で、強さの象徴であるためこの国で男に一番多い名前である。だから大抵色でたとえて呼び分ける。
このアクスはその髪の色から黒いアクスと呼ばれていた。
幼馴染であり、アクスのライバルだった男だ。
なかなか体が大きくならないアクスをいつもやせっぽちとばかにしてきたのがこの男だった。それが悔しくて体を鍛えてからはいつも腕を競い合ってきた。
「戦え、赤いアクス。俺は強くなった。もうお前に負けはしない。それを証明してやる」
黒いアクスはそう言って右手で斧を構えると、左手に握っていた斧を一本アクスに投げてよこした。
この男はいつもこの調子だった。血気盛んで頭の中はいつも戦いのことでいっぱい、所構わず決闘したがる。
アクスのかわいい弟サーレマーのことを軟弱だと言ってはいつもいじめていた。
ああそれなのに、サーレマーはこの男にまでなついていたのだった。
人の悪意を悪意と受け取らず、受け流してしまうような明るくあたたかい子だった…。
「早く。斧をとれ赤いアクス」
黒いアクスが急かしても、アクスは斧をとろうとしなかった。
「私に戦うつもりはない。それに、墓前を荒らすような真似はしたくない」
「腰抜けめ。勝ち逃げのつもりか」
「何と言われても構わない」
アクスの断固とした態度に、今戦わせることは無理だと悟ったのだろう。黒いアクスは苛立ったように斧でぬかるむ地面を叩いて唸った。
不意に背後から声をかけられ、アクスは驚いて振り返った。
深い物思いにふけっていたから、近づく人の気配に気づかなかったのだ。
目の前に現れたのは赤と黒のまだらの髪を後ろでひとつに結んだ、屈強な大男だった。彼を目でとらえた瞬間、アクスは思わず口走っていた。
「黒いアクス…!」
――と。
アクスという名は、昔遥かエルラシディアから伝わってきた最強の武器の名で、強さの象徴であるためこの国で男に一番多い名前である。だから大抵色でたとえて呼び分ける。
このアクスはその髪の色から黒いアクスと呼ばれていた。
幼馴染であり、アクスのライバルだった男だ。
なかなか体が大きくならないアクスをいつもやせっぽちとばかにしてきたのがこの男だった。それが悔しくて体を鍛えてからはいつも腕を競い合ってきた。
「戦え、赤いアクス。俺は強くなった。もうお前に負けはしない。それを証明してやる」
黒いアクスはそう言って右手で斧を構えると、左手に握っていた斧を一本アクスに投げてよこした。
この男はいつもこの調子だった。血気盛んで頭の中はいつも戦いのことでいっぱい、所構わず決闘したがる。
アクスのかわいい弟サーレマーのことを軟弱だと言ってはいつもいじめていた。
ああそれなのに、サーレマーはこの男にまでなついていたのだった。
人の悪意を悪意と受け取らず、受け流してしまうような明るくあたたかい子だった…。
「早く。斧をとれ赤いアクス」
黒いアクスが急かしても、アクスは斧をとろうとしなかった。
「私に戦うつもりはない。それに、墓前を荒らすような真似はしたくない」
「腰抜けめ。勝ち逃げのつもりか」
「何と言われても構わない」
アクスの断固とした態度に、今戦わせることは無理だと悟ったのだろう。黒いアクスは苛立ったように斧でぬかるむ地面を叩いて唸った。