聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「ならば…ならば武術大会に出ろ。一月後の武術大会に。そこで改めて決着をつけよう」

武術大会―やはりあの大会は続いていたのかと、アクスは思い返す。

武術大会。

それは年に一度ピティランドの男たちが互いの武術の腕を競い合う血生臭い大会である。

この大会で良い成績をおさめた者の部族がより強い発言権を持つという、政治的な側面も併せ持つ。

優勝者には願いをひとつ叶えることが許される。

17年前の武術大会の決勝戦で、アクスと黒いアクスのライバル対決に決着がついた。アクスは勝ったのだ。そして優勝者として海を渡る船を国に願い、エルラシディア大陸へと渡った…。

「いいな、必ず出ろ!」

あたりに荒々しい反響を残し、黒いアクスの背中が町並みの中へと消えていく。

木造平屋建ての家屋が連なる街並み。そのほとんどの軒先に交差するようにして飾られている二本の斧が、戦いを求める男が黒いアクス一人ではないと如実に物語っている。

斧は強さの象徴。ここの男たちは皆、戦いを、強さばかりを求めるのだ。

サーレマーは男たちの中にあって、奇跡のような変わり者だった。

昔は女たちだけでなく男たちも、祈りの中に日々を送っていたといわれているのに、いつからこんなふうになってしまったのだろうか。噂によれば、今やこの黒いアクスが中心となって、女たちにも祈りより戦うことを強制し、部族間の争いを深めようとしているという。

いたるところの屋根にあしらわれた鮮やかな青を、アクスは目を細めながらみつめた。

サーレマーが陽雨神様の瞳の色だと喜んでいた色だ。

「サーレマー、どうすればいい。こんな状況で、どうすれば皆お前のように祈りを思い出してくれる?」

アクスの中の幼いサーレマーの面影は、無邪気に笑うばかりで答えを与えてはくれなかった。
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