聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
海の鏡の星の世界は今日も深い藍色に沈みながら、幻想的に瞬いていた。

「また来たのか母上」

陽雨神が小ぶりの黄色い星の上に腰掛けながら、腕を組んでため息のような声を聞かせた。

その頬にはやはり涙が流れ続けている。

リュティアは恭しく跪くと、包み込むような優しい声で語りかけた。

「サーレマーさんが亡くなったとうかがいました。だから陽雨神様はずっと泣いていらっしゃるのですか?」

この質問に、陽雨神は少し目つきを鋭くした。

「…なぜ、そう思う? 我は神ぞ、人間一人のことで、泣き続けるはずもない。我は誕生より三千年間、くり返し、もっともっと大きな悲しみ―散りゆく命の運命やあり方を思っては泣いてきたのだから」

「なぜ、といいますと…そうですね、サーレマーさんは一際陽雨神様を愛していらっしゃったと聞きましたし、何度も陽雨神様とお会いになったということでしたから…それに」

「それに?」

「今の陽雨神様の涙は大切な人を亡くしたときの涙に似ていると思ったのです」

「大切な人……」

陽雨神の瞳が一瞬その言葉の響きにとらわれたように焦点をなくした。だがすぐに鮮やかな色彩をその目に宿らせリュティアを睨みつけた。その色は高ぶった感情の色―怒りの色であった。

「あんな奴、大切な人などではない! 大嫌いだ! 約束を破った、とんでもない奴だ!サーレマーは、一年前、ある日突然現れて、………」

陽雨神は高ぶる感情に任せてサーレマーについて語った。
< 53 / 172 >

この作品をシェア

pagetop