聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「わかりません。でもあなたは一人じゃない、一人じゃないのです。何にも立ち向かっていない人などこの世にはいません。常に私には私の、あなたにはあなたの、試練や課題があります。それぞれに前を見据えてその試練や課題に取り組んでいる、それが人生というものの形だと思うのです。みんな一人なんだけれど、どんなに近くにいても誰も肩代わりはできないんだけれど、だからこそ一人じゃないと思うのです。みんな同じだから、一人じゃない。大きな視点で見れば、みんなで取り組んでいる。そう、思えませんか?」

「わからぬ!!」

陽雨神がことさらに声を荒げたのはなぜだろう。

それはこの言葉が少しは心に届いているからだと信じたかった。

「…わかっていただけるまで、私がおそばにいます」

「うそをつくな。もうすぐ夜が明ける。今帰らねば、来月の新月の日が来るまで帰れぬぞ。早く帰るがいい」

「いいえ、帰りません」

「なんだと?」

陽雨神が驚くのも無理はないが、リュティアは本当に帰るつもりがなかった。

陽雨神に笑顔を取り戻させるまで、帰るつもりはなかった。

リュティアは母親が子供に優しく言い聞かせるように、囁いた。

「帰りません…おそばにいます」

あの日のカイがそうしてくれたから、あのぬくもりがあったから、自分は悲しみを乗り越えることができた。だから今度は自分がそうする番だ。
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