聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「大丈夫か?」

人影がそう言いながら青い剣を掌の上で消し、リュリエルに歩み寄ってきた。蒼玉のごとき蒼い瞳を持つ若い男だった。

ふいに葉の傘を割って強い光が射し、その人の髪を黄金にきらめかせた。それは白金のような淡く優しい色調の黄金だった。

何も言えずにただ瞬きを繰り返すリュリエルは、次の瞬間さらなる驚きを目の当たりにすることになる。

若い男のすぐ後ろから、新たな狼の魔月が現れたのだ。現れたのだが、その魔月は様子がおかしい。若い男につき従うように身を寄せている。

リュリエルの驚愕の視線に気づいたのか、男は軽く苦笑した。

「こいつは、大丈夫だ。人を襲ったりしない」

彼の髪は黄金だ。紛れもなく星麗のはずだ。

―星麗が、魔月を従えている…!?


「俺の名はヴィルトゥス。この森を守る者、お前は?」


―そう、私はあの人に逢った。


―“緑に緑 青に青 重ねし幾千万の森に 彼の人は住まう

その髪 星の光を集めし金の流れ

その瞳 水の蒼を集めし蒼玉の輝き

吹きわたるは甘い淡緑色の風

それを吸っては吐くように、彼の人は自在に剣を操る

緑を踏みしだく 足音が聞こえぬか

朝日の乙女の逃げまどう 足音が聞こえぬか

剣にて乙女を救いし彼の人は

その名をそっと、囁くがごとく明かす―

おお、我が嘆きを静める乙女よ

おお、我が使命を重ねる騎士よ

その心 その夢 なんと愛しきか“
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