聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「母上…ばかな、本当に帰らなかったのか」

星の殻から陽雨神が出てきて呻くようにそう言ったのは、新月の日から実に一週間も経ってからだった。

「そばにいると、申しあげました」

小首を傾げるように微笑んでそう答えるリュティアの声は滑らかだ。この一週間、頻繁に陽雨神に語りかけ続けていたからである。たとえ届かなくとも。

「…サーレマーと同じだ…」

「え?」

「…なんでもない」

陽雨神は苛立ったようにどかりと星の鏡の大地の上にあぐらをかくと、ちらりとリュティアを一瞥した。

「母上、こんなところで一か月、何をするという」

「そばにいます」

「それはわかった、他には」

「ええと、では、星を眺めます。こんなに美しいところですもの、飽きません」

実際リュティアはこの一週間をそうして過ごした。ここでは睡眠も食事も必要がない。だから祈りながら星を眺めるくらいしかやることがない。だがそれを苦痛とは思わなかった。この世界は美しく、時折星が流れたり大きな星が近づいてきたりと常に変化があるからだ。

「特に星々から時折注がれてくる淡い光、あれが特別美しいですね」

「…あの光か。あれは祈りの光だ。人々の祈りが、この闇を時にまばゆいほど明るく真っ白に照らすのだ…」

そう語る陽雨神の声にはどこか寂しさのようなものが滲んでいた。

「今はもう、そんなこと絶えて久しい。人々は祈りを忘れつつある…」

「では私がここで、人一倍お祈りいたします。少しでも陽雨神様のおわすこの世界が明るくなるように」

そう言うなり両手を組んで祈り始めるリュティアを、陽雨神はおおいに驚きながら眺めた。

サーレマーも同じことをしたからだ。

少しでも明るくしようと、一生懸命にここで祈ってくれた…。
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