聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
陽雨神は蘇る面影に何度も瞬き、やがてうつむいてぼそりと呟いた。

「母上の…言ったことを、考えてみた」

「え?」

「祈っていろ、暗くなる」

「は、はい」

「一人じゃないと、言ったな。皆で取り組んでいるのだと」

リュティアは言われたとおり目を閉じ祈りながら、頷く。

「皆で取り組んだから、なんだという。一人じゃないから…なんだという。我は」

陽雨神の声がくぐもった。リュティアが思わず目を開けると彼は片手で顔を覆っていた。

「我は悲しい。悲しいのだ。悲しくて悲しくてたまらないのだ。こんな悲しみははじめてだ。たとえ一人じゃなかったとて、この気持ちには何の変化ももたらせるはずがないのだ」

それはやっと陽雨神が見せてくれた真実の心だった。

だからリュティアも真実の心で答えたい、そう思った。

「陽雨神様は、…悲しみは悪いものだと思っていらっしゃるのですか?」

「ああ、悪いものだ。我を支配し、我をどうしようもなく苦しめる。悪いものでなくて、なんだというのだ」

「……。そうですね、うまく、言葉にできるかわかりませんが………」

リュティアの目の前を瞬きながら廻る星がある。それをゆったりと泳ぐクラゲが追いかけている。マイペースだ。リュティアは今まさに、このクラゲのようにマイペースに、人生を振り返り始めていた。真実の心で答えるためにはそれが必要だと思った。

人生に訪れた深い悲しみを思い出す…。それは辛いことだから目をそらす? ―いいえ、マイペースでいいから、向き合う、光を追いかける…。

陽雨神も続きを催促しなかった。二人の間に時はゆっくりと流れていた。

母を失った悲しみ、祖国を失った悲しみ、恋した人に殺められた悲しみ…様々な悲しみがリュティアの中を駆け巡る。その中から、ふるいにかけるようにして、きらきら輝く大切なことをみつけていく…。

やがて静かに、リュティアは言葉にした。みつけだした大切なことを。
< 63 / 172 >

この作品をシェア

pagetop