聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「私たち人間は…喜びの裏に悲しみを持つ生き物です。悲しみがあるから、喜びがあって、辛いことがあるから、うれしいことがあって、影があるから、光放てる生き物だと思うのです」

「我は人間ではない」

「そうかも知れません。けれど陽雨神様は喜びも悲しみも持つ、とても人間に近い方ではありませんか? 私にはそう思えます。
不思議ですね、なぜ陽雨神様は、星麗にすらない、悲しみを持ってお生まれになったのでしょう…。
悲しみは確かに心の奥底から湧き上がってくる大きな何かに、つながっているような気がします。だからどうか、悲しみをお嫌いにならないでください。悲しみという生ある者の土台の一部が支えてくれたおかげで手にすることができた、輝ける時間を忘れないでください。その輝きは、決して消えることのないものだと思うのです」

悲しみがもたらしたものがあったはずだ。出会いが、喜びが、あったはずだ。悲しみの土台の上に始まった旅が、リュティアにたくさんのものをもたらしてくれた。だからよかったのだと、今は思える。思えるのだ。

「その輝きがある限り、私たちはいつでも立ち上がれます。その力があります。そうして立ち上がっていくことが、生きることなのではないでしょうか」

「こんな悲しみから、立ち上がれると…?」

陽雨神はリュティアをすがるようにみつめていた。リュティアは力強く頷いてやった。

「必ず立ち上がれます。だって、力を貸してくれる人が、たくさん、いるのですから」

「誰が我に力を貸すという」

「皆です」

「皆は我に力を貸したり、しない。日差しを求めているだけだ」

「いいえ、純粋に、陽雨神様を想っていらっしゃる方が、たくさんいます」

「うそだ」

「うそではありません」

「現に祈りの力は年々弱まるばかりではないか」

「必ず皆の祈りがここに届く日が来ます。アクスが呼びかけてくれます」

「信じているのか……」

「はい」

「……………」
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