聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~

ゆっくりと浮上する意識の中、リュティアは今まで見ていたものが夢だと気がつく。

なんてリアルな夢だろう。

夢の中で自分はリュリエルと呼ばれていた。

リュリエルとヴィルトゥスと言えば、“星麗の騎士”だ。自分は星麗の騎士の夢を見ていたのか。だが自分の知るストーリーと微妙に違っているのはなぜだろう。

リュリエルは王国の姫君ではあったが星麗ではなかった…。婚約者はあんなに冷たくなかったし、詩人の友人はいなかった…。

そう思いながら、リュティアは右手の痛みに気がつく。その痛みが自分の意識を強制的に浮上させたことに気がつく。

―痛い。いったいなんだというのだ。

「ん……」

呻いて、ついにリュティアは瞼を上げた。すると――

「お目覚め、聖乙女(リル・ファーレ)」

まだぼんやりとかすむ視界に飛び込んできたのは、見慣れたパールの顔だった。

リュティアはパールと本を読んでいたことを思い出した。ということは、自分は本を読みながら眠ってしまったのだろうか。それは恥ずかしい。

「パール、ごめんなさい、私……」

パールの頬に伸ばそうとした手がガシャリと鳴った。重い金属音にリュティアは思わず手元を見る。

リュティアは我が目を疑った。

リュティアの手を、重々しい金属の鎖が拘束していたのだから。

「え………?」

しかも、右手の甲からは血が流れている。パールがそのすぐそばで鋭利な刃物を握っている。状況が理解できず、リュティアは固まった。
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