聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
第四章 光の人の正体
1
消えない虹の架かりし時より、時は約一月遡る。
闇夜に走る不気味な稲光が、その城の姿を幽鬼のように浮かび上がらせる。
天を突かんばかりに立ち並ぶ攻撃的な尖塔。
灯りひとつとて浮かばぬ黒々とした死の国への入口のごとき窓。
斜めに叩きつける激しい雨をものともせずにその城は、圧倒的な存在感を持ってそびえている。
城のほど近くの林の中から、城をみつめる険しい視線がある。
すっきりとした黒目がちの瞳―弓を背負った人影は、カイである。
「ここが…グランディオム王城……」
呟きは、激しい雨音にかき消される。
この季節、この国では珍しい雨。気温が高い日である証拠。しかしそれは雪よりも容赦なく冷たくカイの体温を奪う。
カイがなぜ今たった一人で、この危険な魔月の王国の中心にいるのか、それを説明するには、さらに一月遡らなければならない。
一月前。
フローテュリア王城を護衛官として巡回中、カイはパールと魔月、そしてその背に桜色の人影を目撃した。
カイは我が目を疑って、パールたちが去った方角を呆然とみつめてしまった。
その時すぐにあとを追わなかったのは、信じられなかったからだ。夢でも見ていた可能性の方が高いと思ってしまったからだ。だがやはり不安で私室を警備中のアクスのもとに飛んでいくと、リュティアの姿はなかった。
アクスとカイの二人は急いで準備を整え、パールを追った。
幸いなことに彼らが去った方角はきちんと記憶にあったので迷いはなかった。
王都を出てすぐの林の中に、魔月たちが時折使う“闇の道”をみつけた。
パールがどういうわけかこれを使ったのは間違いなさそうだった。二人に躊躇はなかった。二人は不思議な闇の渦の中を抜けて、気がつくと雪の山中にいた。
雪が降り積もっていたことは、二人にとって幸いであっただろう。パールと魔月の残した足跡が夜目にもくっきりと浮かび上がっていたからだ。二人は足跡をたどり、不気味な鋼鉄の城を発見した。
闇夜に走る不気味な稲光が、その城の姿を幽鬼のように浮かび上がらせる。
天を突かんばかりに立ち並ぶ攻撃的な尖塔。
灯りひとつとて浮かばぬ黒々とした死の国への入口のごとき窓。
斜めに叩きつける激しい雨をものともせずにその城は、圧倒的な存在感を持ってそびえている。
城のほど近くの林の中から、城をみつめる険しい視線がある。
すっきりとした黒目がちの瞳―弓を背負った人影は、カイである。
「ここが…グランディオム王城……」
呟きは、激しい雨音にかき消される。
この季節、この国では珍しい雨。気温が高い日である証拠。しかしそれは雪よりも容赦なく冷たくカイの体温を奪う。
カイがなぜ今たった一人で、この危険な魔月の王国の中心にいるのか、それを説明するには、さらに一月遡らなければならない。
一月前。
フローテュリア王城を護衛官として巡回中、カイはパールと魔月、そしてその背に桜色の人影を目撃した。
カイは我が目を疑って、パールたちが去った方角を呆然とみつめてしまった。
その時すぐにあとを追わなかったのは、信じられなかったからだ。夢でも見ていた可能性の方が高いと思ってしまったからだ。だがやはり不安で私室を警備中のアクスのもとに飛んでいくと、リュティアの姿はなかった。
アクスとカイの二人は急いで準備を整え、パールを追った。
幸いなことに彼らが去った方角はきちんと記憶にあったので迷いはなかった。
王都を出てすぐの林の中に、魔月たちが時折使う“闇の道”をみつけた。
パールがどういうわけかこれを使ったのは間違いなさそうだった。二人に躊躇はなかった。二人は不思議な闇の渦の中を抜けて、気がつくと雪の山中にいた。
雪が降り積もっていたことは、二人にとって幸いであっただろう。パールと魔月の残した足跡が夜目にもくっきりと浮かび上がっていたからだ。二人は足跡をたどり、不気味な鋼鉄の城を発見した。