聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
城のガードは固かった。

うじゃうじゃと魔月が徘徊しているのが遠目からでもはっきりとわかった。

こちらはたったの二人。がむしゃらに突っ込んでも勝敗は見えているので、二人は逸る心を抑え、しばし機を待つことにした。戦いに備え、その間に交替で仮眠をとった。

その時だ。カイが不思議な夢を見たのは。

『カイ―――、聞こえますか、カイ』

聞いたことのある声だった。

―誰だったろう…?

『カイ、私です』

それは紛れもなくセラフィムの声だった。

『セラフィム様…?』

『よかった、やっと通じた。今あなたの夢に働きかけているのは、他でもない、聖乙女にかかわる重大なことがわかったからなのです』

カイはこの時この夢がただの夢ではないとはっきり認識した。虹色に輝く夢の世界の中、カイは響くセラフィムの声に耳を澄ます。

『重大なこととは、〈光の人〉についてです。3000年前―私が誕生した頃に存在した星麗の詩人ナッシュの手記を発見しました。彼は今語り継がれる“星麗の騎士”の物語をつくった人ですが、手記から意外なことがわかったのです。星麗の騎士にはモデルがおり、それがヴィルトゥスという名の〈光の人〉だったのです』

『星麗の騎士が、…〈光の人〉?』

『そうです。私の残された力ではこの夢は長くもたないので、私が手記から知り得たことを今からいっぺんにお伝えします』

セラフィムの声が終わるや否や、カイの中に様々なビジョンが流れ込んできた。

それは映像と呼ぶには知識の要素を多分に含みすぎ、知識と呼ぶには映像の要素を多分に含みすぎたビジョンであった。

カイは知る。幾千万の森で〈光の道〉を守っていたヴィルトゥスの存在。星麗たちを従えていたアンジュという一族の存在。そしてナッシュの友人のリュリエル――。緩やかに波打つ黄金の長い髪を風になびかせ、その手に光の剣を持つ世にも美しいその娘…。

―リュー?

カイにはわかった。リュリエルがリュティアだと。顔立ち云々ではない、魂を感じた。
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