聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~

『…俺にこの使命は重すぎる』

そう呟きながら、ヴィルトゥスの焦点を失った目がみつめているのは深い孤独だった。

〈光の人〉に両親はいない。

〈光の道〉を守る特別な使命を持つ星麗である〈光の人〉は、光神により直接、成人した姿で生み出される。

だからヴィルトゥスは両親のぬくもりを知らない。生まれた直後から使命を持ち、そのための力を持ち、そのために生きていた。たったひとりで。それは孤独ではなかったろうか。

生まれたばかりの魔月を拾って育て始めたのは、その孤独を埋める存在を求めてのことだったのかもしれないし、星麗としての使命や運命に逆らいたかったのかもしれない。だがそれは彼の孤独をさらに深めることとなった。

時折幾千万の森に迷い込む星麗たちにとって、魔月と共存しようとするヴィルトゥスの姿は恐ろしい以外の何物でもなかったのだ。

魔月の手先と怯えられ、森に火をかけられたことすらあった。

そんな彼の孤独な人生にとって、突然現れたリュリエルという存在はあまりにも驚くべき存在だった。

自分を怖がらない初めての星麗。

まっすぐにみつめてくる初めての星麗。

くるくるとよく表情を変え、きらきらと輝く瞳で世界をみつめる星麗。

だからだろう。彼女はヴィルトゥスにとって、弱音を吐けるはじめての相手であったのだ。

『常に〈光の道〉を狙う魔月たちと戦わなくてはならない。それに一生、絶対にこの森を離れてはならない。ずっとこの森で、戦い続けていくんだ。いやになる……』

美しい満月の夜だった。

二人は深い森の中の切り株に腰掛け、あたためた湯を飲みながら話していた。リュリエルはさきほどから真剣な表情でヴィルトゥスの横顔をみつめている。その視線がまっすぐだから、どんな自分の歪んだ気持ちもまっすぐにしてくれそうで、ヴィルトゥスは本音を吐露することができる。

『なぜもっと自由に、生きられないんだろう……』
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