聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
リュリエルは潤んだ瞳からはらはらとしずくをこぼしながら、とぎれとぎれに呟いた。

『幸せになど、なれない…あなたがいないのに、幸せになど……』

『リュリエル…?』

『ヴィルトゥス様』

見上げるリュリエルの瞳が帯びる熱に、ヴィルトゥスの胸はあやしく騒ぎだす。

彼女の唇が次に紡ぐ言葉の予感に甘くおののく。

『あなたのことが、好きです…こんなに、苦しいくらいに…』

リュリエルの告白は、彼女の心と同じく、飾りのないまっすぐなものだった。

だからまっすぐに、ヴィルトゥスの心に届いた。

―ああ。

ヴィルトゥスは吐息のように心で呻く。

その胸に広がるのは、想いが叶った幸福感。時よ止まれとヴィルトゥスは願った。

『できるなら、この森で、ずっと、あなたと一緒に…』

しかし続くリュリエルのその言葉が彼に、幸福感を凌駕する強い使命感を湧き起こした。

『だめだリュリエル』

ヴィルトゥスは声を荒げていた。

そうでもしなければ抱き締めてしまいそうだった。何もかも忘れて抱きしめてしまいそうだった。

『使命を受け止めることの大事さを教えてくれたのはリュリエル、お前だろう』

―ちがう。そんなことを言いたいんじゃない。

ヴィルトゥスは苦しかった。

『…わかっています。でもせめて、せめてこの気持ちを、知っていただきたかった…ただそれだけです。あなたのことを、ずっと、忘れません。たとえもう二度と会えなくても』

『リュリエル…』

リュリエルの細い肩が震えている。
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