聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
認めたくない自分と共に、すでにそれを認めている自分がいる。その自分が叫ぶ。どうしてそんな運命の二人が戦うのだと。

「こんな戦いは、やめろ! 私は…お前を救うよう頼まれたんだ」

それをリュティアも望むだろうか。そう思うとカイの胸は疼くように痛んだ。

「俺は戦いをやめない」

ライトは無表情に告げた。

「わかったんだ。この衝動には抗えない。抗うことなど無意味だと…それほどに、心地いいんだ」

ライトの瞳が深い追憶に沈む。そして問いかける。

―この心地よさを知ったのは、いつからだろう。たったひとりの親とも慕った仙人ファラーガをこの手にかけた時? それとも、母を殺してたった一か月でこの世に生まれ出でた時? いや、きっともっと前からだ…。

生まれる前からライトは、この心地よさを知っていた。

「衝動に従うことでのみ、俺は生きていることを確かめられる。戦いだけが、俺の生きる意味だ。命の意味なのだ」

「だが…リューを、聖乙女を好きなのではないのか」

カイにとってこの質問ほど辛いものはなかったろう。

「好き……」

この時今まで一貫して淡白だったライトの表情に鮮やかな変化が生まれた。

セピアの絵が一瞬で色とりどりに彩色されたような変化だった。

強い感情が生まれたのだ。

ライトは眉をつりあげカイを睨みつけると、いきなり腰の剣を抜いた。

「好きではない!! 好きなはずがない!!」

うなりをあげて襲いかかる剛剣を、カイは間一髪、自らも引き抜いた剣の端で受け止める。

「ありえないことだ…! ありえない…!!」

剣を苦手とするカイである。実力の差はわかりきっていた。その上ライトの剣は容赦がなかった。カイの剣は三合と持たずに強い力に弾き飛ばされた。

しかしカイは身を守るために何の行動も起こすことができなかった。

愕然とするほどにショックを受けていたからだった。

カイは、違うと言ってほしくて先ほどの質問をした。カイの願いどおりライトは違うと言ってくれた。

それなのにカイにはわかってしまったのだ。

好きではないと否定するその叫びの中の、切ないほどの想いがわかってしまったのだ。それはただ好きと言われるよりよほどこたえた。
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