聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
―ライトの気持ちは本物だ。ライトは本当に、リューのことが好きなのだ!!
ライトの剣が空を切ってまっすぐに、カイの心臓の上に入ってくる。
しかし剣はそこでぴたりとその動きを止めた。
一瞬の、張り詰めた、沈黙。
ライトの冷たい声がそれを破る。
「お前には…俺を殺す力がない。ならば…殺す価値もない」
はっと、カイは息を呑む。
ライトがまるで死を求めているように聞こえたのだ。
「去れ。そして俺から、聖乙女を…………守れ」
ライトはくるりとカイに背を向けた。
ゆっくりと遠ざかる漆黒の背中を、カイは呆然と立ち尽くしたまま凝視する。その背に漂うのは、獣のような荒々しい気配、そして自分の牙で自分を傷つけるような痛々しさ…。
玉座の間の後ろ、闇に塗り込められたような奥の間へ向かうその様子は、暗い暗いところへ、まるで死へ、向かっていっているように見えた。
“守れ”…それはライトの本心ではあるまいか。
戦うことが、命の意味だと彼は言った。
命の意味―その言葉を、カイも人生の中で何度も使ったことがあった。リュティアを守ること。それが自分の命の意味だと、ラミアードに語った日を思い出す。自分の命のすべての意味を賭けてリュティアを守りたい、魔月から逃げる道中、野宿しながらそう心の中で反芻した日を思い出す。カイはずっとまっすぐに、そう思って生きてきたのだ。
―けれどこの男にはそれが許されない。
リュティアを守ることは、許されない。
生きるなら、彼は戦わなければならない。一番守りたい少女を、殺さねばならない。
だからだ。
だからライトは死に向かうのだ。
愛する少女を守るために、自分を殺してくれる存在を、求め始めているのだ…。
なんと、なんと重い宿命であろう。
ライトのために、カイは泣きたかった。
彼のために、誰か一人くらい、涙を流してもよいではないか。
確かにカイの心の奥底から湧き上がってくるものが一粒の涙となり、黒い床にこぼれおちた。
それはこの暗い城で唯一優しい光を宿してきらめいたが、見る者はなかった。
ライトの剣が空を切ってまっすぐに、カイの心臓の上に入ってくる。
しかし剣はそこでぴたりとその動きを止めた。
一瞬の、張り詰めた、沈黙。
ライトの冷たい声がそれを破る。
「お前には…俺を殺す力がない。ならば…殺す価値もない」
はっと、カイは息を呑む。
ライトがまるで死を求めているように聞こえたのだ。
「去れ。そして俺から、聖乙女を…………守れ」
ライトはくるりとカイに背を向けた。
ゆっくりと遠ざかる漆黒の背中を、カイは呆然と立ち尽くしたまま凝視する。その背に漂うのは、獣のような荒々しい気配、そして自分の牙で自分を傷つけるような痛々しさ…。
玉座の間の後ろ、闇に塗り込められたような奥の間へ向かうその様子は、暗い暗いところへ、まるで死へ、向かっていっているように見えた。
“守れ”…それはライトの本心ではあるまいか。
戦うことが、命の意味だと彼は言った。
命の意味―その言葉を、カイも人生の中で何度も使ったことがあった。リュティアを守ること。それが自分の命の意味だと、ラミアードに語った日を思い出す。自分の命のすべての意味を賭けてリュティアを守りたい、魔月から逃げる道中、野宿しながらそう心の中で反芻した日を思い出す。カイはずっとまっすぐに、そう思って生きてきたのだ。
―けれどこの男にはそれが許されない。
リュティアを守ることは、許されない。
生きるなら、彼は戦わなければならない。一番守りたい少女を、殺さねばならない。
だからだ。
だからライトは死に向かうのだ。
愛する少女を守るために、自分を殺してくれる存在を、求め始めているのだ…。
なんと、なんと重い宿命であろう。
ライトのために、カイは泣きたかった。
彼のために、誰か一人くらい、涙を流してもよいではないか。
確かにカイの心の奥底から湧き上がってくるものが一粒の涙となり、黒い床にこぼれおちた。
それはこの暗い城で唯一優しい光を宿してきらめいたが、見る者はなかった。