聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「では、出陣だな」

ラミアードの凛とした声を合図にぞろぞろと武将たちが立ち上がった。

ラミアードが闘志に瞳を輝かせながら当然のように彼らの後に続こうとするのを、フリードが前に回り込んで止めた。

「だめです」

「!」

「陛下は私と共に本陣にお残りください」

「なぜ」

「今玉体を危険にさらすわけにはまいりません」

「だが…!」

「真打ちは、最後に登場するものですよ」

二人きりが残された天幕の中でラミアードとフリードが軽くにらみ合う。二人の視線は駆け引きだ。先に折れたのはラミアードだった。フリードの頑固な意思の力に負けたのだ。

「……わかった。後方から支援しよう」

フリードは意味ありげににんまりと笑った。

「ラミアード陛下は女王陛下よりものわかりがよくていらっしゃいます」

「それは、ほめているのか?」

「お好きなようにお受け取りください」

ラミアードはわずかに唇をとがらせる。彼はこの明晰な頭脳と卓越した毒舌を持つ宰相が少し苦手である。

そんなラミアードの様子が面白いと言わんばかりにフリードは笑みを深める。

「さて、次は我らが希望の星のもとへと、まいりましょうか陛下」
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