聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
その頃希望の星リュティアは、本陣の医療用大天幕の中で忙しく立ち働いていた。

軍医たちの指示が飛び交い負傷者たちの苦痛の呻きがあちこちであがる小さな戦場のようなここで、リュティアは軍医たちに交じって、包帯を変え、水枕を運び、消毒をしていた。

体の一部が切り取られてしまったような重傷者は必ずリュティアのもとへ運ばれてくる。聖具の力こそないけれど、生来彼女の持つ癒しの力が今、重要な役割を果たしていた。

聖具がないので、力を使うたび彼女は意識を失うほどに疲弊する。それでも彼女は力を使うのをやめなかった。

彼女を克己的なまでにこうした治療に打ち込ませているのは、もちろん純粋な人々を想う心であったが、それだけではなかった。正直、次から次へと何かをやっている方が、気が紛れてよかったのだ。

ちょっとでも手が止まると、心にぽっかりと穴があいてしまったような、心細くてどうしようもない気持ちになる。

―カイは、どこにいるの…。

たったひとりの存在が、彼女を占める。心を土台からぐらぐらと揺さぶる。

―なぜ、いないの? 何か、あったの…?

フローテュリアに帰りさえすれば、当然顔を合わせられるものと思っていたのだ。だが、カイはどこにもいなかった。

―いつ……会えるの?

離れて二か月以上。もう長い間、リュティアの心はさまよい続けている。吹雪く雪原の中を、ただ光だけを求めるように。
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