聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「女王陛下、けが人の今の状況は?」

フリードの声で、ああ、今自分は女王として報告を求められているのだと理解した。

「負傷者約300名、重傷者約50名です」

「あと収容できる人数は?」

「もうここには無理です。今も天幕が足らずに外で看ている方も大勢います。それでも足らないので街の病院に運んでいますが、そちらもすでにいっぱいだということです」

「なるほど。早く決着をつけなくては……」

心は色々な想いでぐちゃぐちゃなのに、すらすらと答えられる自分がリュティアは不思議だった。まるで自分ではない誰かが自分の声で原稿を読み上げているようだ。

「リュー、大丈夫かい? 顔色が悪い。君はすぐ無理をするから」

ラミアードが気づかわしげにリュティアの肩に手を置く。

―無理。

自分は無理をしているのだろうか。無理とはなんだろうか。わからない。

自分は自分なのだろうか。

わからない。

「そこが女王陛下の美徳でしょう。ですが――」

突然額に鈍い痛みが走り、リュティアは思わず「痛…っ」と声を上げていた。

何が起こったかわからずまばたけば、目の前にフリードの右手がかざされている。中指でつまはじきされたと気付くのにしばらくかかった。

「教師として言わせてもらう。少しは休め」

つまはじきのおかげでリュティアの意識は上の空の“別人(じぶん)”から“自分”に戻っていた。この時はじめてリュティアの中に二人の言葉が言葉としてしっかりと入って来た。
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