あたしこそが最愛最高の姫である
でもそもそもあたしが悪か善かなんて誰も決めれることじゃないのかもしれない。
“世間”から見たら、まぁどちらかというと無害に近い女を落としたあたしは悪だ。
でもその行為を自分を守るための“正当法”と正義をかざして名づけるなら、一部からはあたしが善となるのかもしれない。
まぁどっちみち善でも悪でも何でもいい。
これであたしが劣ることなく“優”になれたんですもの。
思わず笑いが漏れそうになったとき……。
生徒会の扉が開いた。
そこから入ってくるのは……玲だった。
「あれ。玲だ」
ソファーから立ち上がって玲のもとへ駆け寄る。
今日も相変わらずイケメンだ。
しかも暑さのせいかスーツを地味に崩して着ていて、妹のあたしでも色っぽく感じる。
「ここ、どれだけクーラー効かせてんの?」
ネクタイを少しほどきながらあたしに視線を向けた玲。
「ちょっと強いかも?って。なんでここに?」
「あー、蓮に用事あって。………蓮は?」
蓮は不在で、ここにはあたしと紫苑しかいない。
「紫苑、蓮知らない?」
紫苑に向かってそう聞くと、紫苑は首を軽くひねる。
そして少し考えた後に口を開いた。
「あれだろ?直が蓮を連れて校長室に判子もらいにいったぜ?校長のサインと生徒会長のサインが必要な書類があるらしい」
「……だってさ、玲。蓮は校長室にいるって」
すると玲は少し困った顔をした。
「終業式の原稿、作ってきたのに……」
毎回のごとく使われないご苦労な仕事を玲は相変わらず続けている。
どうせ今玲の手に持たれている原稿もいずれはゴミになってしまう。
でもゴミ箱行きになるのは運のいいときだけで、後は大抵床やそこらへんにポイだ。
そのことを玲は薄々気づいているだろうに、懲りずに全く読まれない原稿を作り続ける。
さすが我が兄。なんて健気。
「……ならさ、今回あたしが生徒代表の挨拶してみたい」
そんな兄を思って、健気な原稿用紙を活用しようか。
少し先にある終業式にその紙束を、一字一句間違わず噛まず完璧に読んでやろう。
でもそう言うと玲の顔は険しくなった。
「……美玲、それは自分で思ったこと?何か裏に考えてない?」
「……は?失礼な」
思わず顔をしかめてしまう。
一年に一度ぐらいは、純粋な思いやりのある行動ぐらいできるよ。
あたし、どこまで悪女に見えてるんだろう。