あたしこそが最愛最高の姫である
「………お前さ、教師と付き合ってるってマジなわけ?」
………この男もその話題を出すのか。
「………さぁ、どうでしょ。でも玲はあたしのもんだからね」
男に顔を向けて、くすりと笑った。
うっと言葉に詰まらせてから、顔を真っ赤にする男。
やっぱり男なんてちょろい。
男から視線を外そうとしたとき……。
視界の隅にあたしが開けっ放しだった教室の入り口が映り、そこにいた人物に思わず視線を向けてしまった。
ばちり、と目が合う。
「……あ?って、蓮じゃねぇか」
…………最悪。
パーティの時にいた、あの男だ。
あたしは席を立つこともできずに、ただ男を睨んだ。
「………なに?お前ら知り合いなわけ?」
思わず舌打ちを打つと、男はかすかに口元を引き上げた。
「___________見つけた」
きゃーーーーっと、教室内で沸き起こった歓声に、男の言葉は聞き取れなかったものの、そちらに思わず視線を向けてしまったと同時に。
バン、と大きな音がした。
ゆっくりと顔を横に向ける。
「もう逃がさねぇよ」
男は、乱暴に教室のドアを閉めていた。
「……………うっざ」
思わずぽつりとつぶやいてしまう。
あたしこんな自分勝手で自己中なやつが本当に無理だ。
自己中と自己中が一緒の空間にいると、ただうざいだけだ。
うざいの極みだ。
「……………は?もしかして蓮が言ってた女って……こいつ!?」
「あたしをこいつ呼ばわりすんなクソチャラ男」
このイライラをどうすることも出来なくて、ただ隣のヤンキーを強く睨んで口をはさんだ。
「……………あ?お前今なんっつった?そーいえば、この前もずいぶん失礼な事言ってくれたじゃねぇか。顔がいいからって調子のんなよ?痛い目見んぞ」
「黙れよクソ男。誰に向かって文句言ってんの?」
「ざけんな」
………イラッとくる。
こんのクソ男にどう言い返してやろうかと考えていたとき。
「お前ら、黙れ」
ずっと入り口に立っていた男が口を開いた。
隣りの男は視線を入り口の男に移し、なにやら抗議を始める。
「蓮、この女のどこがいいんだよ?顔じゃねぇか。顔しかいいとこねぇじゃねーか。性格ぜんっぜん可愛くねぇぞこの女」
「あいにくあたし、性格に可愛さ求めてませんから」
「男は求めるんだよ!」
「いいから黙れよ」
またヒートアップしそうな言い合いを、入口の男が止めた。
でもあたしは止まらない。
「あたしだってあんたみたいな顔だけのチャライやつは生理的に無理だから。ちなみにあたしに反論してくる男なんて死ねばいいと思ってる」
はっと嘲笑いもつけると、隣の男はなぜか絶望的な目であたしを見た。
「…………ま、まじで可愛くねぇ女」
「だから別にあんたに可愛いなんて思ってくれなくても、ちゃんと可愛いって言ってくれる人いるからいいんだけど」
……まぁ、玲だけども。
でもあたしは隣の男に言ったつもりなのに、反応したのは入り口の男だった。
「その理解者があの教師かよ?」
「だったら?あたしの理解者は玲以外いないし、いらないし」
するとイラつきを隠すことなく顔に出した入り口の男。
「……お前、教師じゃなくて俺と付き合えよ」
………は?
思わず男の言葉に耳を疑った。
「冗談気持ち悪い」
「………………」
ぽかん、とあたしを見てきた入り口の男。
いや、そんな顔されても本当に気持ち悪いから。
本当に一瞬背筋がゾッとしたような気がした。
変な痺れが走った。
「…………………」
ただ衝撃を受けたように何もしゃべらなくなった男。
だからあたしは隣の男に視線を向けた。
「……………お、お前…。頭大丈夫か……?」
「平常運転だから大丈夫」
「あ、あの蓮の誘いだぞ…?」
「………あの蓮って言うのが分かんない。芸能人?」
「……………………俺、軽く絶望したくなってきた」
「絶望してそのまま屋上からひもなしバンジーでもしてくればいいと思うよ」
「………何でだろうな。お前と喋ると精神が異常に削られるわ」
「それはありがたき幸せ」
もちろんにっこりとほほ笑むと、男は死んだ魚の目をあたしに向けた。
その目、汚いからやめてほしい。
ふと入口の男を見ると未だに固まっていた。
…………あれだね、自分に異常なほどの自信を持ってたただのナルシの成れの果てを見れた気がする。
顔が良いからって性格が自己中だと話になんないのよ、バーカ。
もちろん自分の事は手の届かないような高いところの棚に上げてる。