【完】恋愛距離*.゜ーボクラノキョリー
沢森の家の前まで行くと、ビニールを握る手が、じわりと汗で湿るのを感じた。
……情けねえな、このくらいで。
どうかどうか、沢森本人が出てきませんように、なんて器の小さな願いをしながら、インターホンを押す。
誰も出なければいい。そしたら俺は、ここから逃げられるのに──なんて考えてから、ふ、と自分を嘲笑う。
最近、逃げることしか考えてねえ。
そのくせ、沢森を諦められた訳でもない。
……逃げてばっかりじゃ、手に入るもんも入らねえっつーのにな。
沢森が出てきても、いつもの調子で話しかけよう。そう決心して、ドアが開くのを待っていると──。
「……お前……」
中から出てきたのは、思いもしない人だった。