【完】恋愛距離*.゜ーボクラノキョリー
だから無視して帰ろうと思ったんだけど。
「……」
困ったように、沢森が視界の隅でキョロキョロするから。
仕方なく、俺は沢森の方へ向かった。
「なあ」
「!?!?」
ポン、と沢森の肩を後ろから叩くと、こっちが驚いてしまうくらい、びくりと沢森が肩を跳ねさせて驚いた。
そしてこちらを振り向いた沢森は、俺の姿を見留めてから、やっぱり怯えの色を瞳に浮かべ、そこから逃げ出そうとした。
……人の顔見るなり、逃げ出そうとしやがって。
俺は心のなかで小さく舌打ちしながら、沢森の首根っこを引っ付かんでひき止める。
「……待てよ、なんか困ってんだろ?」
「き、木村君には……関係ない、です」
──木村君。
たどたどしく呼ばれた自分の名前に、心が満たされる。
……単純だよな、俺も。
「なんで敬語なの?」
「……特に意味は無いです」