【完】恋愛距離*.゜ーボクラノキョリー
なんで名前で呼んでんだよ──
「渓斗君、どうしたの?」
「ほら、夏休みだから、恵梨の顔見に来たんだよ」
「暫くはこっちにいられるの?」
「うん。てか、ほとんど居るつもり!」
なんだよ。
なんなんだよそいつ。
俺の目の前で、俺の知らない話なんかしてんじゃねえよ……!
「沢森、誰」
喉の奥から出した声は、自分でも驚くくらいに低かった。
それに驚いたように沢森が俺の方をみて、あ、と気まずそうに声を漏らす。
「えと、渓斗君は──」
「ども、初めまして!土屋渓斗(つちやけいと)です。恵梨とは2ヶ月前から付き合ってます!」
沢森の肩を抱き寄せながらそういった男に、目の前が真っ暗になる。
付き合ってる?
沢森を見れば、沢森は俺の方をみようともしなかった。
2ヶ月前、か……。
転校してすぐに彼氏が出来たってことかよ。
……なんだ。
沢森にとって俺はその程度かよ。
まったく俺のことなんか引きずらなかったってことか。
「……お幸せに」
俺は自嘲めいた笑みを浮かべながら、その場から去った。
こんな状況で、沢森に好きだなんて言えるわけがなかった。