花と闇
夜に煌く
此処は人間と鬼が住む世界。

人間といっても“魔法使い”や“幽霊”などと種族は様々だ。

鬼もまた、様々で、“妖怪”や“鬼神”などといる。

細かく分かれていて、それがまた混在しているため、一昔前までの差別や偏見は皆無に等しい。
だが、鬼が人間を捕食したり、その逆もあったりと物騒な世の中ではある。

鬼の種族の中でも“吸血鬼”と呼ばれる種族がいる。

一般には“血を吸い、獲物を殺す”とされているが、血を吸わない吸血鬼もいる。


「あぁ、君はあまりにも美しい。」

男は少女に近寄る。

少女は静かに玉座に座り、人形のように表情を動かさない。

「……シエリア。」

血を吸わない吸血鬼、シエリア。
それが少女の名だ。

彼女は本来、植物のエネルギーを吸い、生きている。

「“滅びの魔女”」

そう呼ぶ。

そして、笑った。


——街では、噂が広まっていた。
“滅びの魔女”が街の者の生気を吸い、全てを朽ちさせると。
噂の始まりは隣町で、既に何人もの犠牲者が出ている。

クラウジアはそんな噂話を旦那から聞いた。

彼女の容姿は黒髪で人を寄せ付けない風格がある。
旦那の血しか欲しない吸血鬼で、普段は専ら屋敷で旦那と過ごしている。

屋敷は森の奥にあり、其の森もクラウジアの屋敷の敷地内だ。
クラウジアの旦那、ヴォルフラムが見回りをしている。
彼は、森の中に入った者を木につり上げて殺し、その血を吸う。
その為、誰も此処には入らない。

だから、そんな心配は要らない。
そう、思っていた。

「……それにしても、あの子は最近来ないね。」
「シエリアか。」
ヴォルフラムはクラウジアの友の名を口にする。
「事件が起きた以前から来なくなったな。……巻き込まれていなければいいけれど。」
「そうだな。そうなれば面倒だ。」
そう言って、書類を見る。
「この件について、依頼を受けた。報酬は弾むと言っていた故、引き受けた。」
「珍しい。面倒なのは嫌いじゃなかったのかい?」
「先日、誤って、税金の徴収に来た役人を殺しそうになったことがあった後ろめたさもある。」
「ふぅん。……ドジ。御前に後ろめたさという常識的情があったことは褒めておこう。」
「煩い。馬鹿にしているだろ?」
クラウジアにヴォルフラムは睨んだ。
「村はずれに屋敷がある。事件はどうもその屋敷が関わっているらしい。とは、突き止めた。」
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