花と闇
高らかに笑う男を大樹が突き刺す。
「……そう、あなたが、さいご。」
シエリアは男に近寄る。
「ずっと、ねむっていてね。」
「嫌だ!嫌だぁああ!!」
男の悲鳴は大樹が重なり、かき消した。
シエリアとクラウジア、ヴォルフラムが居る場所だけが草原で留まっている。
そこから先は森だ。
「これは……!」
(回復能力か!それで、吸収を続けていたのか。身体が成長したのは恐らくは溜めたエネルギーに耐えれなかったから。)
ヴォルフラムは思考を巡らせる。
「見ろ!」
クラウジアは後ろを指差す。
木々の隙間から遠くが見える。
「あんなところまで……!一体、どこまで広がるのだ。」
民家であろう建物さえも、飲み込む植物に驚愕する。
「もうやめろ!これでは、却って危害を及ぼす。」
クラウジアはシエリアに駆け寄る。
「とめられない、よ。」
弱々しい声で言った。
「これしか、方法はないの。」
足元が植物に絡められる。
「ごめんね。ひどいこと、した。」
シエリアは言う。
「こんなもの、大事無い。なぁ……教えろ。どうして、こんなことを。」
「あのひとが、言ってたの。こうすればいいって。」

——遡ること三ヶ月前。
シエリアが街を歩いていると、男が背後からシエリアを捕まえた。
『きゃあ!』
人気がない場所に連れ込まれ、髪を掴まれた。
『はなして!』
暴れると、背中を踏みつけ、瓶の蓋を開けた。
中には何か赤い液体が入っている。
恐らく、吸血鬼用に市販されている血液だと予測できた。
その液をシエリアに飲ませる。
『いや!いや!!』
ごくりと音を立てて何かが入る。
体中があつい。
まるで、自分が自分でなくなるようで。
それでも、守りたい。
(だから……だめ。おかしくなっては、だめ。)
そう、片隅に置くも抗えぬ衝動。
鼓動が脈打ち、目の前が歪む。
もっと、もっと……
たりない。
たりない。
そして、食らいついた。
飲み干し、喰らい、欲を晒す。
目の前の男を殺し、シエリアはふらふらと細い路地を出る。
運が良い事に、それまでは誰にも会わなかった。
抜けると、目の前に屋敷が見えた。
(こんなところに繋がっているのか。)
そんなことをぼんやりと考える。
『もっと、欲しいかい?』
男が現れる。
『随分、強欲だな。』
『わたし、わたし……』
怯えるように自身を抱きしめた。
『大丈夫。』
男は笑う。
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