すると次の瞬間だった。


リュック君は携帯を手に取り、恐るべき早さで女の子の太ももの間に滑り込ませてサッとそれを抜いたのである。


それを見た瞬間僕はもちろん驚いた。

こんな何を考えているのかわからない奴、頭の中がうまくのぞけない奴がとんでもないことをしでかす。

人の頭の中ってほんとに怖いものだ。

僕は何も言わなかった。

女の子にも、リュックにも。

ある種のそうした現場に僕は引きずり出されたくなかったのだ。

女の子もリュックも僕も幸せならそれでいい。

僕がこのことについて発言したのは電車ではなくて学校でだった。

「マジでびっくりしたって!あ~捕まえれば良かった」

「そうだって!捕まえてたら格好良かったのに」

普段あまり話さない女の子にさえこの話をしたのだ。

何もしていないのにそれは気が付けば僕の武勇伝になっていたのだ。

いつもより早い電車に乗ったのはもちろん土田への報告のためだ。
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