君の全てが欲しいんだ
side by ARISA
それは突然のゲリラ豪雨だった。
コンビニで買った安いビニール傘は、あっという間に裏返ってしまった。
所持金820円。
このしょぼい懐事情をどうにかしようと、駅前のATMまで、ひとっ走り…、のつもりだった。
「……っ。」
銀行はもう、目の前なのに。
立ち竦んだまま、為す術も無い。
雑居ビルの庇の下で、先住者の燕たちに紛れて、雨宿り。
いつになったら雨が上がるんだろう。
全身が濡れたせいか、寒くて仕方がない。
一向に止む気配を見せない雨空に、大きな溜め息を吐いた時、私の名前を呼ぶ声が、した。
「有紗?」
そのビルのエレベーターから降りてきたのは、3ヶ月前に別れた男、桐生未来。
「…未来、くん。」
「うわっ、ビショビショじゃんっ。」
銀行に寄ったらすぐに帰ろうって思ってたんだもん。
Tシャツにジャージ素材のゆるっとしたパンツという、ラフな服装。
しかも、雨に濡れて肌に張り付いているという、最悪な状況…。