シーソーゲーム
 人間が生まれる前、神は存在しなかった。存在するはずがなかった。誰が信じ、何が存在を必要とするのだろうか。だからこの世にある存在というものは、一つ一つが必要とされているためにあり、存在する限り、いらないものはない。

 しかし自分が何のために生きているのかという存在理由は知らない。存在するものが存在するものを排除しようとする考えがあるが、あれは間違っているものである。誰も願っているものでもないし、存在しないからいいという問題でもない。

 しかしこんなことを知ったのは俺が高三になる直前だったし、この世に神や存在理由なんてものはなく、ただ生きているだけだと思っていた。今まで言ったことをまったく見向きもせずに、人は一日を過ごし、俺も退屈な人生を過ごしているように思えた。しかしそれもあの不可思議な出来事で大きく変わってしまった。

 いつまでも退屈な人生を、もちろん俺は望んではいなかったが、過激でハリウッドのようなアクションをしたいわけではない。平和でありふれているが、時々おもしろいことがあり、時々喜べることがあればいい。親から離れていい会社に入り、家族を作って家庭を築き、好きなものを買って、旅行に出かけて、たまには上司に怒られたりなんかして、そんな暮らしでよかった。一般の常識ある清浄な生活を望んでいた。

 人生の歯車が狂い始める予感なぞ、まったくなかった始業式を過ぎて一週間以内のことであった。それが過ぎると、俺はもとの人生に戻れないと思った。俺は言わば、レールから外れた機関車であった。嫌な予感が、脳をよぎったのだ。

 すでに新たなシーソーが動き出していた。
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