シーソーゲーム
 リョウも私も、何も話さなかった。そして昼頃だろうか。大体一時間ほどして、よくこんな状態を保てるなと、我慢大会に出られるかなと思った時、私は家を出ることにした。

「じゃ、私…そろそろ、おいとまするね」

 リョウは家の前まで送ってくれた。

「じゃあね」

 返事はなく、ただ黙ったまま私を睨みつけているようであった。

 嫌だな。素直に私は思った。

 そして私はそのまま帰ることにした。もうリョウの顔は見ない。そうすることにした。

 しかしどうしても振り向かねばならなくなってしまった。私の肩を、リョウはつかんで引っ張ったのだった。

「なあ…俺…俺…」

 言葉の出ないリョウより先に、突然のことに驚いて、気が動転していた。そしてすぐに私の肩に乗っている手を払い、リョウの目つきを思い出し、今のリョウの強い眼光と引っ張る腕の力がさらに加えられ、私は急に恐ろしくなった。何もかもだ。

 私はきびすを返して逃げ出した。走って、走って、走った。家の中に飛び込むと、何とか振り切ったような気がし、息が弾み、しかしすぐに魔物でも追いかけて来ている勢いで、ドアのカギを閉めた。

 私はすっかり雨にぬれたような格好になり、疲れた足を引きずりながら自分の部屋に戻った。何も感ぜられぬままベッドに飛び込み、また何やっているのだろうと私に問いかけた。しかしその時の感情移行は鮮明に思い出せるのだが、その思い出されるたびに後悔が現れる。あの時、ああやっておけばよかった。もしかしたらあの時、あれがリョウなりの最大限の表現だったのかもしれない。

 私はまた、あの時リョウが何を言いたかったのかを考えてみたが、いくら考えたところで導かれるものはない。

 まあ、やはり突然あの時、訳も分からずに逃げ出した私が悪いと私は決め付けた。何を言おうとしたのか。私は気になった。だが自分から謝ろうにも、携帯を持つまでで、その後ボタンを押す勇気がない。

 携帯を机に置き、またベッドに倒れこんだ。

 自分に欠けているのは多くある。だがそこに埋めるものは何もない。少なくとも私の周りにはだ。自分で探す気にもなれない。そんなの決まっている。どうせ自分でではどうにもできない。
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