シーソーゲーム
 本当の幸せは、こんなことではない。私がリョウと付き合うことがゴールならば、それで世界は変わらずに水平線をたどり続けるだろう。こんなの変だ。絶対違う。私は幸せが近くにあるものだと思った。目的を達せれば、それが幸せなのだと思った。

「やっぱり…できない…」

 そして私は一つのことをした。それはシンプルで、簡単なこと。

「ルイの…思い出…」

「…あ」

 私はリョウにルイの記憶を返した。神から直接に、あるいは間接的ではなく、もともと記憶としてあったわけだから、教えたことにはならない。

 リョウも気付いたように、ルイが思い出されていた。

「ルイ…」

 リョウは狼狽した。

 あの消えた時のルイを思い出したわけだから、ショックも大きいだろう。そして私もまた、ばれてしまった。神であることが、ばれてしまった。今にとってはもうどうでもいい話なのだが。

「お前…」

 リョウは動転している。消えていったルイが、光の粒子になったのだ。しかもそれが明確に、明細に、鮮明に思い出されたのだった。

 リョウは近づき、私の肩をつかんだ。

「ルイは…ルイは…」

 私はリョウに教えた。神の能力で、脳に植えつけた。

「そんな…」

 地面にしりもちつくリョウに、私は慰めた。
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